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ARMORED CORE 2

- Raven -



赤。
モニターを覆う一面の赤い粒。
テラフォーミングが終了し、大気と土壌が調整されても。
ちょっとした嵐がおきれば直ぐさま火星の赤い砂が顔を出す。
人類がこの星に進出する遥か昔から繰り返されてきた光景であっても、
その凄まじさはこちらに悪意を持っているように感じられる。
この星にとって、人類は悪害でしか無い。
自分達の都合の良いように大気と土壌を改造し、
かつて地球を”食い潰した”ように貪欲に地下資源を貪っている。
その中でも俺達レイヴンは最低の存在か…。
自嘲しながらセンサーのスイッチを入れる。
ノイズ。
砂に含まれる金属性の微粒子がセンシングを妨害する。
これで良い。
この砂嵐が俺を…機体を隠してくれる。
全高を抑えた戦車型の脚部パーツに換装しているとは言え、
遮蔽物の無い砂漠では十分目立つ。
「標的」に感ずかれては手間だった。
ジオマトリクス社の調査隊を殲滅する事が今回の「依頼」。
彼等がここで何を調査し、
何故「殲滅」されなければならないのか。
理由は知らない。
知る必要もない。
依頼を果たし、クライアントから報酬を貰う。
それがレイヴン。
この世で最も危険な「最低」の職業。
モニターを流れる「赤」がより一層濃くなってくる。
鉄分の酸化した赤茶けた錆色。
嫌な色だった。


レイヴンの「表の顔」はアリーナの選手だ。
AC(アーマードコア)を使った賭試合。
火星全土に中継される興行としての殺し合い。
各ACには一定以上のダメージで強制停止するよう、
安全装置が組み込まれているが実弾を使った試合で命を落とす者も多い。
観客にとってはそれも”楽しみ”の一つなのだ。
上位50位以内のレイヴンは「ランカー」とも呼ばれる。
俺も中堅のランカーだ。
順位に興味は無いが、レイヴンとしての仕事が増える一種のステータスシンボルだ。
ガランとした控え室の壁面モニターに映し出される試合の様子を確認する。
居る程度予想して早めにアリーナ入りしたものの、試合の消化ペースは早い。
欠場のランカーが2人も居るのだ。
「欠場」。
その多くはそのまま「永久欠場」になる。
つまりは…
「裏の仕事」で命を落としたという事だ。
誰も何も詮索しない。
それがレイヴンという職業なのだから。


「−♪」
安っぽい電子音がメールの着信を告げる。
「表の仕事」だけで生計をたてているスター気取りのレイヴン共とは違い、
俺のような「裏の仕事」を重視しているレイヴンにメールを送る者など限られている。
表向きはアリーナを、裏では依頼の斡旋を統括する「ナーヴス・コンコード」。
そこの担当者、ネル・オースターからに違いない。
…。
予想は半分当たっていた。
オースターから転送されてきたメール。
差出人は知らない名だ。
数週間前にとある依頼で救出したジオマトリクス社の調査員。
その恋人からだった。
確か、救出した直後に感謝のメールが入っていた。
その中に出てきた結婚間近の婚約者という人物だろう。
内容は、こうだ。
俺の助けた調査員、その彼が転属になった調査隊が昨日行方不明になった事。
会社はまったく捜索活動を行わない方針なので俺に探索を依頼したい事。
…。
ネル・オースター宛に丁重に断るようメールを打つ。
気持ちはわかるがレイヴンは個人の財力で雇えるほど安くは無い。
第一…。
「ー!」
室内アナウンスの合成音声が出番が迫った事を告げる。
丁度良い。
相手には悪いがせいぜい憂さ晴らしをさせてもらおう。
…
彼は…
ジオマトリクスの調査員は、「欠場」した2人のレイヴンと共に赤い砂の下に眠っている。
探すだけ無駄という物だ。

命がけで助けた男を、数週間後に手に掛ける。

それがレイヴン。
この世で最も危険な「最低」の職業。

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