20th Dunbine



”クルセイダー”


− オリジナルオーラバトラーズ −






夜空に瞬く深海魚の群。
その輝きもどこか故郷と違うように思える。
はるか天界でもこの世界と同じように広がりがあり、
そこに住む生き物も場所によって様様なのだろう。
当たり前といえば当たり前のことがふと心を過ぎる。
「戦隊長。」
背後からの呼びかけに我に返って振り向く。
この艦の艦長だった。
「こんな夜更けにどうされましたか?」
「貴殿こそ。艦長直々に当直するほど緊迫してはいないだろうに。」
言ってお互い笑いが漏れる。
「…思えば来たばかりの頃は一時も早くこの地を去りたいと思ってばかりでしたが…」
「行き来している貴殿がそれでは私の立つ瀬が無いぞ」
艦長がデッキの手すりに並んでよりかかる。
「此処で過ごす最後の夜、か…」
東方。
故郷から遠く離れたこの地を訪れたのはもう何年も前だった。
僅かに交易商人から聞き及んだ噂だけを頼りに。
オーラシップを中核とした世界初の遠征部隊だ。
そう聞けば随分立派には聞こえる。
「…若い頃、初めてあてがわれた馬を思い出します。
  最後の夜は馬屋で共に過ごした物です。」
視線の先には荷に追い出される形で船の外に置かれた異形の巨人があった。
明日、別れを告げるのはこの地ばかりではないのだ。


翌朝。
晴れ渡った空を1機のオーラバトラーが飛ぶ。
オーラバトラー”クルセイダー”。
手には槍や丸盾、鉤爪のついたワイヤーなどを持っている。
対強獣用装備だ。
この特殊な装備にも最初の頃は随分と戸惑った。
苦労して倒した強獣が
ほとんど使い物にならないほど傷めてしまったとわかった時には酷く落胆したものだ。
先導機のドロから信号弾があがる。
目的地に到着したのだ。
幾重にも柵に囲まれた小さな村。
木と蔓で作られた粗末な家々。
この地方の代表的な村落だ。
その外縁でははやくも強獣、ダッカー共がうろつき耳障りな叫びをあげている。
翼竜に乗った戦士達がその頭上を威嚇するように旋回していた。
我々の到着を待って攻撃するつもりだろう。
最後の”狩り”がはじまった。


故郷であるアの国からはるか東方のこの地方では
人々は部族ごとに小さな村落で暮らしていた。
荒地と密林が広がり、そこに住む強獣も桁違いに多い。
日々、互いの生存圏を巡って戦いが続いていた。
当初は強獣を狩りにきたという我々はまったく受け入れられなかったが、
長期にわたる活動のためには彼等現地民の協力が不可欠だった。
今は共に轡を並べる若い長との一騎打ちでその信用を勝ち取ったのだ。
彼等は遠路はるばる
百害あって一利なしの強獣を狩りにきた異邦人に首を捻りながらも
外敵ではないことだけは理解してくれた。
此処では国より、部族より、”人”としての団結がなければ生きていけない。
信用を得た途端、彼等は頼もしい”友”となっていた。


唾液を飛ばしながらガッターが吼える。
群れの統率を乱し、突出した個体から順に倒していく。
狙い目は喉や内腹、甲殻の継ぎ目部分だ。
手も脚も重要な筋組織を傷めてしまう危険性がある。
ただ闇雲に倒せばいいというわけでは無い。
…もっともこの期に及んではいらぬ心配なのだが。
ガッターの頭上をドロが掠め飛ぶ。
その動きにガッターは首を巡らす。
すかさず、踏み込み、左わき腹の間隙に槍を突き立てる。
絶叫。
臓腑を貫いた槍が体液を吹き上げる。
もはや死は時間の問題だ。
ドロも慣れたもので、さっと上昇してすぐに次の獲物を探す。
『お見事。故郷に帰っても強獣狩りで食っていけますな、戦隊長。』
「まったくだ。貴様こそ”袖引き”が板についてきたころなのに惜しいだろう。」
みな明るく振舞ってはいるが心持は複雑だった。
名ばかりの遠征。
オーラマシンの材料確保のための遠征。
そこにあてられている人員は「冷や飯食い」ばかりだ。
どんな言葉で飾ろうとも、栄誉ある任務とは言えはしない。
貧しくとも、
生きていくことが困難でも、
紛れも無く、ここには生甲斐があった。


飛竜に乗った戦士達は海岸までついてきた。
浅瀬に着陸したクルセイダーの頭上を旋回している。
ヘルメットを脱ぎ、傍らに置く。
去りがたい寂寥感があった。
この地にも、この機体にも。
ダンバインの改良型であるクルセイダー。
その最後の1機。
機械工と油まみれになって整備し、
墜落すれば現地民を総動員して回収した。
壊れた機体から部品を寄せ集めては修理し、
述べ300回以上も本国へ送るほどの猟果をあげた。
その最後の1機。
如何に貢献しようとも…
”裏切り者”の乗機に酷似した機体は帰郷を許されなかった。
その分、船には荷を積むように、と。
我々には凱旋すら許されない。
この地での強獣狩りは決して他国に知られてはいけないのだ。
それがこの地のためでもある、と自分を納得させる。
コクピットハッチを開く。
既に膝下まで海水が上がってきていた。
もうしばらくすれば潮が満ち、完全に水没するだろう。
その向うに自分を回収するドロが見える。
「…すまん…」
呻くようにそう謝罪するのが精一杯だった。


帰国後、
遠征部隊の面々は機密保持を名目に名ばかりの閑職に回され、
一切、遠征の事を他言することは許されなかった。
クルセイダーのことは歴史の闇に消えその存在すら知られていない。


いや…


国が滅び、かつての乗り手達が居なくなっても、
遥か東方、
荒地と密林の狭間に住む現地民の口伝にその勇姿は語り継がれている。







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