20th Dunbine



”Seiren”


− バイストンウェル 仮想戦記 −



ミ・フェラリオはひとりぼっち。
見渡す限りの海原と激しい潮流に囲まれて
ミ・フェラリオはひとりぼっち。
ずっと、ずっと。
誰も居ないその島に
ミ・フェラリオはひとりぼっち。


ある日、
激しい嵐が”キカイ”に乗ったコモンの若者を島へと運んできました。
若者のキカイは嵐のために怪我をして遠くまでは飛べません。
その島にはミ・フェラリオとコモンが住むことになりました。

・
・・
・・・
「あ・・・」
岬に座っていたミ・フェラリオが立ち上がりました。
「たいへん。たいへん。」
リーンを輝かせながら、ミ・フェラリオは森の奥へと飛んでいきます。
「聞こえるよ。聞こえるよ。」
ミ・フェラリオは言います。
森の奥には最近になってコモンの若者が住んでいました。
もうミ・フェラリオは1人ではありません。
ミ・フェラリオはそのことが嬉しくてたまりませんでした。
「聞こえるよ。聞こえるよ。」
ミ・フェラリオが言います。
コモンの若者はミ・フェラリオの頭を一撫ですると
キカイに乗ってミ・フェラリオの指し示した方向へと飛び立っていきました。
・・・
ミ・フェラリオは耳をすませて若者を”追い”ます。
甲高く、力強い若者の音は
ミ・フェラリオの聞いた”コモンの音”へと近づき、
いつしか1つの曲のようにミ・フェラリオの耳に届きます。
波と風の音しかしらないミ・フェラリオにとって
その曲はとても刺激的でした。

コモンの若者はこう言いました。
この海の向こうにはコモンが居て、
あの音は寂しくなると奏でるのだよ、と。
コモンの若者はこう言いました。
いいかい、私が慰めに行くから、
コモンが1人の時だけ知らせておくれ。

ミ・フェラリオは何度も頷きました。
ミ・フェラリオはずっと1人。
1人より2人で居ることの楽しさを知ったばかり。
きっと海の向こうのコモンは寂しいに違いありません。
くる日もくる日も
ミ・フェラリオは海の向こうに耳をすませていました。

・
・・
・・・
「あ・・・」
聞こえる。
海の向こうのコモンが音楽を奏でている。
でも、今日はいっぱい。
たくさんの音。
いっぱい。
いっぱい。
きっと寂しいんじゃない、
楽しいんだよね。
1人よりも2人がこんなに楽しいんだもの。
あんなにたくさんの音。
きっと、きっと楽しい。
ミ・フェラリオは
ニコニコしながら海の向こうを眺めていました。


「…だめだ、何も見つからん。」
「このあたりは潮の流れが速い。誰も生きちゃいないさ…」
「もう少し探そう。これで5隻目だ、何か手がかりを…」
「こんな場所でどうしてオーラシップが落ちるんだ?まさか本当に…」
「馬鹿言え。船乗り達の迷信に決まってるだろう。」
「信じたくもなるさ。アの領土からどれだけ離れていると思う?
 ウィングキャリバーだって無理だぜ。」
「最近はガロウ・ランだって機械に乗るからな。
 ラウの連中が裏切ってるって噂もある…」
「無駄口はそのへんにしておけ!全機帰還するぞ。」


テガミを書いているんだよとコモンの若者は言いました。
ミ・フェラリオはペンも羊皮紙も文字も
若者のもっているものは全部はじめて見る物ばかりでした。
テガミを木の実に入れて海に流すんだ。
コモンの若者は言いました。
木の実を拾ったコモンかフェラリオが
この島の事を知るようにと。
若者の故郷であるアノクニに届くようにと
そうしたらきっとみんながやってきて
この島にはもっとにぎやかになります。
海の向こうから聞こえてくるくらいに。
ミ・フェラリオは一生懸命手伝いました。

テガミを入れた木の実がたくさんできたので
コモンの若者は木の実を流しに行くことにしました。
島の回りは潮の流れが激しくて
海岸から流した木の実は全部戻ってきてしまいます。
若者はキカイにのって沖まで流しに行くことにしました。

・
・・
・・・
「あ・・・」
若者の音を追っていたミ・フェラリオは気付きます。
若者の音の方向へ
たくさんのコモンの音が向かっていました。
どうなるのかな
ミ・フェラリオはドキドキしました。
いつも2人であんな音楽になる若者の音。
それがたくさんのコモンと・・・
すぐに音楽ははじまりました。
ミ・フェラリオはうれしくてうれしくて
その音楽に聞き入っていました。
…
突然。
何も聞こえなくなりました。
どんなに耳をすましても
波の音だけ。
風の音だけ。
コモンの音も聞こえません。
甲高く力強い若者の音は聞こえません。
いつもはこの島に戻ってくるのに。
どんなに耳をすましても
波の音だけ。
風の音だけ。


「今後、ラウの国への航路は以前のものに戻すように。」
「…ですが、あの海域を迂回してはかなりのロスになります。」
「ラウの伝承を信じるわけでは無いが、捜索隊まで戻らぬのだ。
 これ以上機材を失うよりはましだろう。」
「…はっ。」
「ラウの民を誑かしたエ・フェラリオはタータラの怒りをかって
 あの海域に封じられたという。それ以来、人恋しいエ・フェラリオは
 付近を通る船を呼び込むのだそうだ。」
「…オーラマシンと言えど同じだ、と?」
「考えてもみろ。”機械”を送り、兵を送り、
 我々ナの国はラウの民を戦わせている。
 タータラの怒りをかうにはじゅうぶんだと思うがね。」


ミ・フェラリオはひとりぼっち。
見渡す限りの海原と激しい潮流に囲まれて
ミ・フェラリオはひとりぼっち。
ずっと、ずっと。
今は誰も居ないその島に
ミ・フェラリオはひとりぼっち。









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