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『 M 』
Chapter1.レッド&ブラック
銃弾の雨が盛大に背後のガラスを粉砕する。
「ちょっと、自分の家でしょうに」
ガラス片をかぶりながら柱の影に隠れた人影が呟いた。
「いい加減になさい!」
拳銃の発射音にしてはこちらもかなり派手な音を立てて人影が撃ち返す。
ガラスを打ち砕いた張本人が直撃をくらって跳ね飛んだ。
生半可な防弾ベストでは防げない威力だ。
「ふぅ。」
可愛らしい溜息をついて人影が立ち上がる。
長い緋色のコート。
腰まで伸びた美しい黒髪。
場所が場所でなければ、モデルといっても通用するような容姿だ。
場所が場所…
銃撃戦によってめちゃくちゃに破壊された室内。
倒れる10数人の屈強な男達。
その直中に彼女は1人立っていた。
両手にシルバーメタリックの大型拳銃デザートイーグルを持って。
「さて、と…」
撃ち倒した男の先、弾痕の残るドアへと進む。
「あなたの『玩具』は全滅よ。諦めて出てらっしゃい。なんならこの扉ごと…」
目元の眼鏡が薄く光る。
背後に動体反応。
ただの眼鏡では無い。最新鋭の多目的センシングゴーグルだ。
「!」
振り向き様、向き合う銃口と銃口。
長い髪、眼鏡型ゴーグルに防弾コート。
舞と違うのはその色調だ。
装備は黒一色に統一され、髪は輝くように蒼い。
はだけられたコートから垣間見える白い大腿部が艶めかしい。
手にした黒いMP5Kサブマシンガンの銃口がこちらを向いていた。
「…美沙緒さん?!脅かさないでよ。」
「意外な所で会うわねぇ、舞。」
双方共銃を降ろす。
美沙緒の意味深な言い回しに舞の表情が固まる。
「う。美沙緒さん、もしかして最初から?」
「この仕事はいろいろ物いりなのよ。経費節減。助かるわ、ご協力感謝。」
そういってウィンクすると舞の肩を叩いてドアに向かう。
「ちょ、ちょっと。それは無いわ。少し、その、彼とお話させて欲しいんだけど…ね?」
彼。
ドアの向こうで失禁している「容疑者」だ。
舞はこの男と「少しお話したい」ために夜間潜入し、銃撃戦を演じるハメになった。
「所轄に通報されないだけでも感謝して欲しいわね。それとも…
ライセンスの提示をお願いできるかしら、深山 舞さん?」
「うう。美沙緒さんのいぢわる…」
ライセンス。
町中で銃撃戦を演じてもお咎め無しのライセンスだ。
舞には無いそれが美沙緒にはあった。
「お金では動かない貴女の事だから訳ありなんでしょうけど、こっちも生活がかかってるの。
貴女の事は「聞かれない限り」秘密にしておくわ。」
聞かれない限り。
彼女達の間では最大限の約束だ。
嘘がつけない事。
それが日増しに曖昧になるアンドロイド(人工知能)と人間との境界線だった。
Chapter2.ポリスアクション
メイドロボにはじまったアンドロイドの登場は社会に大きな影響を与えた。
家事、単純労働、各種サービス・・・
少子化と高齢化による慢性的な労働人口の不足を解決する手段として社会のあらゆる場所に瞬く間に浸透した。
搭載される人工知能も日進月歩に改良され、単純労働以外の職務につくアンドロイドにはライセンス制が導入された。
LAD。
ライセンスとアンドロイドからこう呼ばれる。
そして「奴等」という意味も兼ねて。
陰と陽。プラスとマイナス。
さまざまな発明がそうであったように、アンドロイドもまた「マイナス」の側面も持っていた。
人間をはるかに超える運動性能と強靭さ。そして判断応力。
法律やメーカーによる規制が如何に厳しくとも。
その性能を悪事に利用した凶悪犯罪は後を絶たなかった。
目には目を、アンドロイドにはアンドロイドを。
警察機構の職務を代行するLADはセキュリティスタッフとの造語で特にLASSと呼ばれる。
しかし殆どの場合はこう呼ばれた。
バウンティハンター(賞金稼ぎ)。
Chapter3.ミッション
所定の時刻と同時に「仮死状態」に入っていたシステムが起動する。
ビルの屋上。
そこに広げられた防水シートの下に彼女は昨夜からうつ伏せになって潜んでいた。
宅配業者の配達アンドロイド用ユニフォームを着て。
身動き1つせず、有線で屋上に通じる出入口全てに仕掛けたウォッチャー(警戒装置)のデータをチェックする。
「仮死」に入ってから16時間。何者の接近も無かった事を確認する。
そこで始めて目蓋が開く。ゆっくりとした動作で上半身だけを動かす。
最低出力モード。
俗に言う「寝ぼけた」状態だ。
この状態では熱も音もかなり抑える事が出来る。
軍用センサーでなければ100m圏内でも感知するのは困難だった。
手にしたキャリングケースから「得物」を取り出す。
PSG1。
ドイツ製の高性能の狙撃銃だ。
折り畳まれたバイポッドを逆V字に広げ、銃を構える。
防水シートの隙間から1000m先のビルの屋上をスコープで覗く。
標的は撮影会の真っ最中だ。
全て計画通りだった。
Chapter4.ティータイム
「いらっしゃいませぇ」
黄色い声音が三重奏を奏でる。
喫茶「深山」。
本通りから外れた一画にある小さな店だ。
懐くメイド姿のウェイトレス三人娘を軽くいなして美沙緒がカウンターに座る。
「ご注文は?」
愛想の無いマスターの言葉に美沙緒がくすりと笑った。
「ご機嫌ななめみたいね。マスター。」
「誰かさんのお陰でね。」
マスター、舞がむすっとしたままグラスを磨く。
彼女の表の仕事はこの茶店のマスターなのだ。
「せっかくお土産持ってきたのに…つれないのね。」
美沙緒が細い指先で半透明のコインのような代物を弄んで見せる。
「!も、もしかして?!」
「そ。「彼」の所にあったデータシードよ。正確にはバックアップね。端末内部の物は警察に提出したわ。」
「み、美沙緒さ〜ん。ありがとぉ〜。」
昨夜の男はアンドロイドの非合法売買、「誘拐屋」だった。
裏のマーケットに誘拐した様々なアンドロイドを密売していたのである。
有名デザイナーの作品や、レア物、限定製造機は高値で売買されている。
「私はもう中を見たからあげるわ。それとは別件。少し情報が欲しいのだけれど。」
「むぅ、そういう事〜」
喫茶「深山」。
表向きにはオリジナルアンドロイドが看板娘のありふれた店だが、裏の家業も持っている。
但し「金」では動かない。
Chapter5.ミッシングドール
『メレーナ』。
昨年度ノーラッド社が発売した高級アンドロイド。
その際に3体だけの限定モデルが発売された。
購入は抽選。
それも法外な金額で。
本年度のアンドロイドコンテストの最有力候補だ。
そのうちの1体が「誘拐」された。
美沙緒はその行方を追って昨夜の誘拐ブローカーに目をつけたわけだ。
残念ながらその情報はシードの中に無かったが。
「依頼主はコンテストの主催者よ。メレーナ三体の競演が呼び物ってわけ。」
「オーナー(持ち主)からの依頼じゃないのね…可哀想な娘。」
茶店の奧にある「特別室」。部屋の大半を占めるモニター群が忙しなく情報を流していく。
その全てを把握しながら、美沙緒の言葉に舞が溜息をついた。
誘拐、密売、そしてコンテストの呼び物…
アンドロイドがそうした扱いを受けている事に悲しみを感じる。
オーナーにしてみればいらぬスキャンダルは自分のマイナスイメージになるといった所だろう。
「それで、舞の狙いは何?良ければ教えてくれないかしら。」
舞が口を開き掛けるのと同時にモニターの1つが信号音をした。
「なんて事。またメレーナなの…」
表示された情報に美沙緒が絶句する。
30分前、メレーナの1体が狙撃され死亡したのだ。
アンドロイドの法的人権からすれば「破壊された」のだ。
ニューロンコンピューターによるアンドロイド脳はバックアップは取れない。
文字通り頭部の破壊はそのアンドロイドの「死」を意味する。
更に追加情報が流れる。
2人は暫し黙ってその情報を読みとる。
犯人の手口、そしてコンテストを巡る利権の容疑者がリストアップされていく。
コンテストは表面的な興業性だけでは無い。受賞によって生み出される様々な利権、裏賭博の対象…。
他のモニター、各裏ネットにも事件による影響、情報が刻々と表示されはじめた。
そこに「彼女」の死を悼むものは1つも無い。
「私も協力するわ美沙緒さん。これ以上死なせたくない…」
舞の視線の先には狙撃地点となったビルのセキュリティシステム、
裏口の監視カメラに捉えられた宅配業者のユニフォームを着た女性型アンドロイドの姿があった。
Chapter6.ロックンロール
<Side:A>
彼女が悩んだのは一瞬だった。
与えられた命令と情報をシュミレートし、必要な装備を選択する。
MP5SD。
同じMP5でも美沙緒の物とは外観が違う。
銃身下の保持用フォアグリップの代わりに一体式のサプレッサー(消音・消炎装置)が付き、ストック(銃床)は伸縮式だ。
脇と腿のホルスターにはSOCOM(米特殊部隊総軍)ピストル。
そして背中にはM4カービンを背負う。
どちらもサプレッサー付きだ。
手榴弾。
コンバットナイフ。
防弾ベスト。
その姿には舞や美沙緒のような優雅さは微塵も無い。
むしろ舞が倒したGI(男性型戦闘用アンドロイドの蔑称)に近かった。
長い紫色の髪を無造作にまとめ目出し帽を被り、大型のセンシングゴーグルのついたヘッドギアを装着する。
戦闘準備は完了した。
<Side:B>
双眼鏡を覗きながら舞が溜息をつく。
大物政治家名義の豪華な別荘。
それが突き止めた「メレーナの居場所」だった。
上流階級用の秘密クラブと言うやつだ。
その邸宅を見下ろす国道。
黒塗りのスポーツカーの中から2人は様子を伺っていた。
「ねぇ、美沙緒さんならそのまま正面から入れるんじゃない?」
「どういう意味かしら、舞さん?」
こめかみのあたりをひきつらせながら美沙緒がMP5Kを突きつけてみせる。
「コールガールっぽいから」と言えば撃たれそうだった。
舞が笑って誤魔化す。
「とにかく、メレーナを確保するまでは騒ぎは起こさない事。いい?」
「私は大丈夫。美沙緒さんとは違うもの。」
「ど、どういう意味かしら、舞さん?」
「トリガーハッピーっぽいから」と言えば撃たれそうだった。
Chapter7.ガンプレイ
「何が大丈夫なのよ!」
二手に別れて潜入してわずか5分。
邸宅全体に警報が鳴り響いていた。
「まったく!」
出会い頭に出会ったGIに美沙緒がMP5Kを連射する。
防弾ベストに命中して相手が怯む。
MP5の9ミリ弾では貫通できない。
「さっさと死になさい!」
至近距離からゴーグル越しに銃弾を叩き込む。
人間もアンドロイドも頭が弱点な事に変わりは無かった。
「ああ!もう!」
通路の両側から数人のGIが突入してくる。
美沙緒が腰から更にもう1丁のMP5Kを取り出して両側へ銃撃する。
何発かの銃弾が美沙緒の防弾コートに命中した。
美沙緒の顔が歪む。
防弾とは言え、貫通しないだけで衝撃はそのまま身体に突き刺さる。
一旦物陰に隠れ、弾着の衝撃で痺れる腕ですばやくマガジンを交換する。
「覚えてなさいよ!」
言葉とは裏腹に美沙緒の顔は活き活きとしていた。
「だから言ったのにぃ」
美沙緒から数ブロック先の通路。唇を尖らせて舞が言う。
ナイフを振りかぶって襲いかかってきたGIをくるりとかわし、頭部にデザートイーグルを放つ。
そのまましゃがむ。
黒髪が舞う空間を白刃が一閃した。
「きゃ」
可愛らしい悲鳴とは別に身体は迅速に動く。
ナイフを振り切った背後のもう1人、見上げる恰好でその胸を撃ち抜く。
衝撃で棒立ちになった相手を支える。
その背中に銃弾が立て続けに命中した。
通路の先に数体のGIが銃を構えている。
「重い〜」
その身体を盾にしてそのまま突っ込み、最後に死体を突き飛ばす。
GI達が散開する一瞬に舞は物陰へ飛び込んだ。
爆発。
GIの破片が降りそそぐ。
「ふぅ」
死体のハーネスに吊されていた手榴弾からピンを抜いて爆発させたのだ。
関節を軋ませて蠢く1体にトドメを刺す。
転がった首。
無機質な瞳が舞を見つめていた。
戦闘用アンドロイド、GI達の多くは感情を持たない。
プログラムされた戦術パターンと命令によって戦闘を挑んでくるに過ぎないのだ。
とっさの判断や反応速度は舞に比べるべくも無い。
でも…
と舞は思う。
もし自分も「こう」だったら、この胸の痛みを感じずにすむのに、と。
Chapter8.ハーレム
天井の排気口カバーがゆっくりと外される。
一瞬の後にするりと人影が床に降り立った。
充満する甘ったるい香水の匂い。
豪華な内装。
そして、20体を越える半裸の女性型アンドロイド達。
どれも高額な希少機体ばかりだ。
虚ろな笑みを浮かべる彼女達には目もくれず、その人影、大型のセンシングゴーグルをつけたアンドロイドが部屋の奧へと進む。
その動きが止まった。
右手前方、柱の影。
「随分とふざけたマネをしてくれるわね。」
ところどころ破れた黒の防弾コート。
美沙緒だ。
舞でも美沙緒でもない「第三者」。警戒警報を「鳴らした」張本人、に刺すような視線を向けている。
「その恰好、LASSじゃないわね。ライセンスの無いASS(糞野郎)かしら。」
美沙緒も消音器を使う場合はある。
だが、装備にここまで徹底して隠密性を持たせるのは「それなりの」事情があるからだろう。
しかも舞のように「シルバーメタリックの大型拳銃」、自我を持つ相手に示威(脅し)効果を求めているような気配は皆無だ。
囮とされた事にも腹が立つが、何よりその姿が美沙緒に嫌悪感を抱かせた。
「貴様と戦う気は無い。目的は同じだ。」
「何ですって?!」
その瞬間、美沙緒の背後、通路に面した扉が開いてGI達がなだれ込んで来た。
銃撃が美沙緒を射竦める。
「待ちなさい!」
GI達をM4カービンで牽制して「糞野郎」が奧の扉を目指す。
美沙緒にはどうする事も出来なかった。
軽くウェーブのかかった美しい金髪。
透き通るような蒼い瞳。
あえて幼さを残し、少女特有の美しさを表現したボディライン。
メレーナ。
扉を突き破るようにして入ってきた侵入者に一瞬、驚きの表情を向ける。
人間の男ならその様だけでも魅了されてしまうだろう。
そうした「計算」の元に再現された仕草なのだから。
そして、次ぎの瞬間に「彼女」のとった行動は警戒でも、怯えでも無かった。
「お姉さまぁ」
近づいてくる者が武装していようが、アンドロイドだろうが人間だろうが、「彼女」にとっては関係無い。
唯一の判断基準は自分を「求めて」くるのが男なのか女なのか、だ。
そこに舞のような「感情」は無い。
Chapter9.コンバットモード
「遅い!」
GIを背後から撃ち倒しながら部屋に入ってきた舞に美沙緒が叫ぶ。
挟み撃ちにあった恰好のGI達が一斉に舞へ向き直る。
銃撃。
「遊んでたわけじゃないわよ!」
物陰に隠れながら舞がどなり返す。
「どこかの「糞野郎」が1体メレーナの所へ向かった…わ!」
2丁のMP5Kが交互にバースト射撃で唸る。舞に注意を向けていた何体かが後頭部に直撃を受けて倒れた。
残り5体。
うち2体が美沙緒の方に向き直る。
「なんですってーっ!」
次ぎの瞬間。
物陰から緋色のコートが飛び出した。
GIの射撃がその動きを追う。
数メートルも行かずにコートは無数の銃弾を受けて地に伏した。
「舞?!」
美沙緒は見た。
飛び出したのはコートだけ。
白いアンダーシャツとサスペンダー姿の舞が逆方向からGIへ突進する。
凄まじい速度。
手前の2体がコートから向き直る前に、速度を緩めず側頭部を撃つ。
残る1体が舞の方を向く。
黒髪が舞う。
脚払い。
くらったGIが地面に倒れるまでに頭部と胸部に銃弾が叩き込まれる。
美沙緒に向いていた残り2体が振り向く。
低い体勢からジャンプするように踏み込んだ舞が2体の狭間に立ち上がる。
腕を交差させて引き金を引く。
それで全てが終わった。
「急ぎましょう!」
「え、ええ。」
呆気に取られる美沙緒の横を無表情になった舞が早足で奧の部屋へと向かった。
Chapter10.M44
天蓋を持った丸いウォーターベッド。
その上を人工血液が汚していた。
メレーナ。
いや、おそらくはそうだった物。
顎から上を吹き飛ばされた状態では推測するしかない。
「待ちなさい!」
鬼気迫る舞の声。
部屋の最奧。
開け放たれたガラス戸の先、バルコニーにその犯人は居た。
手摺りに脱出用ロープを結びつけているアンドロイド。
背中を見せたその姿の動きが止まる。
「何故なの?!」
吐き捨てるような美沙緒の言葉。
言ったハズだ、「同じ目的」だと。
アンドロイドは嘘がつけない。
美沙緒達もメレーナを暗殺する事が目的だと思われていたとでも言うのか。
4つの銃口の先、そのアンドロイドがこちらを向く。
「状況が変わった…」
ゆっくりとした動作でヘッドギアを脱ぎ始める。
「…私に与えられた任務はメレーナの救出。だがメレーナが「汚染」されていた場合は第三者の手に渡る前に破壊する事だ。」
「なっ?!」
第三者。美沙緒達の事だ。
「よくも…『治療』すれば済む事なのに。あなただって同じ仲間でしょう…」
「仲間だと?」
舞の絞り出すような呟きに目出し帽から覗く瞳が細められる。
「治療、仲間…。勘違いも甚だしい。「人間」にでもなったつもりか。「我々」は「道具」にすぎん。
「持ち主」の役に立ってこその道具だ。持ち主の意向にそぐわない道具は廃棄されて当然。」
「!」
長い紫の髪が夜風になびく。
目出し帽の下から現れたのは舞によく似た顔だった。
美沙緒は驚き、舞は自分の推測が当たった事に眉を寄せた。
「…やはり「貴女」だったのね。「治療」が必要なのは貴女も同じだわ。一緒に来てもらうわよ。」
「舞?どういう事よ。」
「半年前、次世代アンドロイドの開発協力という名目で「深山」のテストヘッドが海外の企業に貸し出されたわ。
その企業が架空の物だった事に気が付いた時にはもう遅かった…やはり裏ルートに流れていたのね。」
「それで密売ブローカーを…。」
「そう。私がそのM44だ。」
Chapter11.ツーマンセル
M44。
ミヤマW型人工知能NO.4。
舞弥達喫茶「深山」のアンドロイド達の生みの親、人工知能の世界的エキスパート。深山氏の最新作。
いや、最後の作品と言うべきか。
自らが開発を手がけていた「より人間に近い」人工知能が軍用利用目的であった事を知った時。
深山氏は試作品のテストヘッドと共に表舞台から退いたのだ。
そして「喫茶『深山』」を創った。
営利目的では無く純粋に「アンドロイドの不正利用」を阻む組織として。
「だが、「リプログラム」が必要なのはどちらだ。元々M4型は高性能を示した…」
「止めなさい!」
構えたデザートイーグルが怒りで震える。
そんな人間らしい身体の「造り込み」でさえ舞は誇らしく思うのだ。
だからこそ…
そこから先は聞きたくなかった。
「…撃ちたければ撃てば良い。手間が省ける。」
M44の口元が歪む。
笑っているのだ。
「目的は達した。私が無傷で貴様等の手に渡るのは好ましくない。「解析」されてはいろいろ不都合だ。」
美紗緒がハッとする。何故素顔をさらけ出したのか。何故ヘッドギアを脱いだのか。
そして先日の犯行手口。
ここはバルコニー…
「まさか…」
「察しが良いな。流石は「ザ・ブルー」。そう、バックアップ(援護役)が私の頭部に狙いをつけている。
貴様等の「お飾りメガネ」程度で探知できる距離には居ないがね。」
つまり、M44は自分を「人質」としている。
美沙緒はともかく、舞の目的はあくまでM44の回収だ。破壊では無い。
その事を知っているのだ。
「それでは失礼する、『お姉様』。」
あからさまな侮蔑の表情を舞に向けてM44が階下の闇に消えた。
Chapter12.LAD
数日後。舞は美沙緒にドライブに誘われた。
どこを目指す訳でもない。ただ都内を流していた。
盗聴を避けて他人に聞かれたくない事を話すにはいい手なのだ。
「結局、真相は闇の中、か…」
舞が力無く呟く。
残る1体のメレーナは結局コンテスト参加を辞退した。
今回の事件がマスコミによって大きく報道されたからだ。
「M44の雇い主が残る1体の関係者、という線は細いでしょうけど、誘拐されたメレーナの関係者とも言い切れないわ。
ノーラッド社のライバルメーカーという線もあるし。」
オートドライブに頼らず「運転」している美沙緒が言う。
「『物損』である限り警察は本腰を入れないわ。「副業のばれた政治家の秘書」がクビになって、
私には雀の涙ほどの報奨金が支払われて、それでお終い。」
「美沙緒さん…」
「わかってる。M44の事は「聞かれない限り」、黙っておくわ。」
赤信号。
目の前の横断歩道を旧式の男性型アンドロイドに付き添われた老婆が横切って行った。
日常の何気ない光景。
「ねぇ。」
暫くして美沙緒が口を開く。
「ああいうの良いと思わない?何となく愛されてるって感じでさ。」
LAD。
「奴等」という意味の他に親しみを込めて「恋人」を指す意味もある。
いつか…
世界中の人間がその意味でアンドロイドと接してくれれば良い。
そう、舞は思っている。
「うん。」
そのためにも、1人でも多くのアンドロイドを救いたい。
勿論、M44も。
舞は力強く頷いた。
Chapter13.ダークサイド
小さな神社に続く石畳を老婆と旧式の男性型アンドロイドが上がってくる。
老婆はいつも同じ場所で巫女姿のアンドロイドが出迎える事を不思議には思っていない。
ましてその立ち位置が自分達を「もっとも迎撃し易い」場所として彼女が選んでいるなどと。
微笑みを浮かべて会釈する行動も怪しまれないためのカモフラージュだ。
「流石ですな。GIではああはできません。」
その様子を境内の一画から伺っていたスーツ姿の男が誉める。
傍らの神主らしき人物が笑った。
「深山式恐るべしと言った所よ。あれで身体は仮物なのだ。末恐ろしい。」
「すると…」
「うむ。近々、例のボディが届く。さすれば真の意味で「紫苑」は最強よ。オリジナルに退けはとるまいて。」
「しおん?M44の事ですか。」
「型式名称では何かと、な。表向きにはそう呼んでいる。」
「成る程。通りが良いですな。いっそコードネームも「紫電」とでもしましょうか。」
二人が低く笑う。
「仕事」はうまく行った。「お布施」も増額されて入金済みだ。
「秘書の不始末」は次ぎの選挙で致命的だろう。
メレーナという「ダシ」がマスコミを焚き付け、政争という真実から世間の目を遠ざけている。
すべてこちらの思惑通りだった。
そしてM44に「実戦経験」を積ませる事も。
アンドロイドは嘘をつけない。
裏返せば「嘘」しか教えなければその口から真実が漏れる事は無い。
彼等はメレーナを救出する気など更々無かった。
誘拐し、あそこへ密売されるよう手を回したのもまた彼等なのだから。
Chapter14.トラブルシューティング
アンドロイドの事で困った事があったら、
そして警察では解決できないのなら、
頼れる場所は2つある。
喫茶店か神社。
そのどちらを訪ねるかはあなた次第だ。
end
※言い訳
珍しく女主人公(照)
らしくないんですが、一応「御礼」用SSだったのでそのサイトの「看板娘」さん達を登場させました。
もっとも、世界観とかまったく私のでっちあげなんですが(汗)
未来の話なのに銃器が現用なのは、1/6トイガンにハマって、それ関係をいろいろ教えてもらった「御礼」だったからです。(=^^=)
勉強不足な点があれば教えてくださいませ。
題名の「M」は登場人物達の名であり、「マリオネット」であり…いろいろです。
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