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「ザクセンドルフの死闘 − TigerU −」
大隊に残された最後の戦車群が降下猟兵を従えて一斉に前進を開始する。 目標は10K先のオーデル川河畔のゼーロゥ高地。 喉頭マイクで乗員に命令を伝える戦車長の声は冷静そのものだ。 高地の守備部隊とは昨日から連絡が取れない。 それが何を意味するのか嫌というほど判っているというのに。 我等が121号車は2両のパンター、ローテ1とローテ2と共に戦隊の右翼を担当する。 たった3両の小隊だ。 自然と機動力の高いX号戦車パンターが先行する形になる。 前進開始から5分もたたずエンジン音を掻き消すように甲高い飛翔音が聞こえてきた。 「スターリンのオルガン」、ソビエト軍のカチューシャロケット砲である。 随伴していた降下猟兵が一斉に地に伏せる。 「12時方向、T34/85、1両!」 着弾の振動とほぼ同時に戦車長の指示。 爆煙と降り注ぐ土砂の中、戦車長は芥子粒ほどの敵影を発見していた。 こちらから出向かずとも敵からやって来てくれたわけだ。 先頭のパンター2両が発砲する。 距離は1900。 おそらく偵察か弾着確認が目的なのだろう、 それ以上距離を詰めようとも逃げようともしない。 この距離ではパンターの75ミリ砲弾が貫通しない事を知っての行動だ。 「よし、88の威力を見せてやれ」 「ヤー(了解)」 スターリンのオルガンが止み、運転手が車体を止める。 ようやく標準内に静けさが戻った。 照準を合わせ一旦深呼吸してから発射ペダルを踏む。 撃発。 Y号E型、ケーニッヒティーゲルの88ミリ砲が火を噴く。 ズシンと車体が揺れ車内に燃焼ガスが充満する。 空薬夾が排出される時の金属音を聞きながら無意識の内に目で砲弾の軌跡を追う。 「芥子粒」の周囲でパッと炎が上がる。 「初弾命中。よくやった。」 前進再開。 正面の茂みを避け、パンターは左に、 ケーニッヒティーゲルは右に進路をとった。 右手には浅い水路が走り、乗り越えるのにエンジンが悲鳴をあげる。 正面装甲200ミリ以上、鋼鉄の塊であるこの戦車はとてつもなく鈍い。 水路を上りきろうとした瞬間に被弾の衝撃。 それも立て続けに3発。 「くそ、正面にT34/85多数。急げ!」 照準器を覗くが車体が傾斜していて敵影を捕らえられない。 運転手が必死にエンジンを吹かして水路を登り切る。 一瞬が無限に感じる。 その間にも数発の被弾。 装甲の薄いW号戦車ならとっくに昇天している所だ。 「距離1000、4両居る。右端から順に標準しろ。」 被弾の間隙を縫って発砲する。 この距離でも正対ならT34の85ミリ砲弾は怖くない。 まるで訓練用の標的のようにテンポ良く4両のT34/85を撃破した。 火力と装甲のシーソーゲームである戦車戦はいつもあっけなく勝負が決まる。 「11時、T34/85、2両。遠いな。」 砲塔を旋回すると右手の雑木林の先に2台のT34が一瞬見えた。 慌てて発砲するがすぐに木陰に消える。 「121よりローテ1、そちらにT34が向かう」 ローテ1、パンターに無線で警告を発する。 『こちらローテ1受信。敵が多い、援護を願う』 「121受信了解。ドライバー、中速前進。」 「前進ですか?」 ローテ1は雑木林の向こう、右手になる。 そこへは先程の茂みまで戻らねばならない。 「そうだ。あの4両は本隊の側面援護だろう、 ならば雑木林を迂回すれば敵本隊の後ろを取れる。」 「ヤー。」 対岸に雑木林が続く水路に沿って北上する。 雑木林の向こうでは盛んに爆発や黒煙が上がっていた。 水路と雑木林が戦場から121号車を隠している。 雑木林が途切れ街道へ突き当たる。右手に進路を取り停車。 そこからは街道上の敵が丸見えだった。 「よし、教育してやれ。」 戦車長の声。こまかな指示をされるまでもなく、 照準内に入った敵影に砲弾を叩き込む。 先程見掛けた2両のT34/85が背後から攻撃を受け即座に黒煙をあげた。 敵は正面にローテ1、左手に雑木林、背後を121号車に挟まれパニックになる。 逃走しようと車体側面を見せた車輌は恰好の標的となり、 砲塔を旋回させた車輌は背後から砲塔をローテ1に打ち抜かれた。 敵の随伴歩兵や脱出した戦車兵達は降下猟兵達の機銃が薙ぎ倒す。 一瞬で形勢は逆転し、10台ほどのT34/85が残骸と化していた。 『…133号車、敵が強力だ。後退する!』 息付く間もなく左翼を担当していたケーニッヒティーガー、 133号車から無線が入る。 燃え盛るT34/85を押しのけるようにして121号車が前進する。 ローテ1の脇を通り抜け、その先、出撃地点へ… 爆発。 ズシンと衝撃波が重い車体を揺らす。 近い。 一瞬、T34の弾薬が誘爆したのではと淡い期待を持つ。 「くそ、6時方向、スターリン!ローテ1がやられた!」 心臓が跳ね上がる。 最悪だ、 122ミリ砲を積んだソ連の重戦車が真後ろに居る。 残骸の上げる黒煙で発見が遅れたのだ。 「急げ!もっと速く!反転!」 全員の気持ちを代弁する戦車長の声。 ケーニッヒスティーガー自体の悲鳴であるかのようにエンジンとギアが唸る。 砲塔の旋回速度がいつにも増して遅く感じられる。 照準器の中を風景が流れる。 急げ。 砲塔を傾げて黒煙をあげるT34が見える。 くそ、ああなってたまるか。 スターリン2型の122ミリ砲は威力こそあれ、発射速度が遅い。 装填手は狭い車内で巨大な砲弾と格闘しなければならないのだ。 神様、どうか敵の装填手がウスノロな大男でありますように。 残骸と黒煙の狭間に…見えた! 「撃て!」 車体がまだ止まりきらぬ間に、その一瞬にすべてが起こった。 戦車長の命令、撃発の振動、そして敵の発砲。 次の瞬間、122ミリ砲弾が着弾した。 耳をつんざく轟音と衝撃、砲塔の内部に身体をぶつけた痛み。 戦車長の脱出を促す声が不思議と鮮明に聞こえる。 訓練通りに砲塔後部の脱出ハッチから転がり落ちる。 泥の感触。 走ろうとして脚がもつれた。 「落ち着け戦車屋!」 誰かに肩を揺さ振られてようやく我にかえった。 ローテ1に随伴していた降下猟兵だ。 我らの121号車は車体後部に1発喰らい、転輪がいくつか吹き飛んでいた。 幸いエンジンルームにまでは達しなかったようだ。 スターリン2は… 砲塔基部、車体と砲塔の継ぎ目を貫通した88ミリ砲弾が乗員を殺傷したらしく、 砲口から薄く煙を出すだけで微動だにしなかった。 「行くぞ、戦車屋。包囲される前に逃げるんだ。」 勝利の喜びなど無い。 生き残った喜びさえも…。 1945年4月。 ドイツはまだ悪夢の最中にあった。 思えば、PANZERFRONTの体験版がこのシナリオでした。 発売まで狂ったように何度も何度もプレイした記憶があります 自車がTiger2(キングタイガー)である事。 PANZERFRONTの厳しさを痛感させる難易度 このシナリオだからこそ、PANZERFRONTの魅力を伝える事ができたと思います。 体験版をやりこんでこのシナリオに思い入れがある方は結構おられるんじゃないでしょうか? |
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