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「西部にて − Jagd.W −」
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地鳴りに似た鳴動が車体を揺さぶる。 振動でラックに治めた砲弾が場違いに涼しげな金属音をたてる。 さして遠くない地点を敵の準備砲撃が襲っているのだ。 「戦車長…」 「なんだ?」 ペリスコープから目を離さずに傍らの装填手に応える。 砲塔の無いW号駆逐戦車の車内は低く狭い。 本来一段高い位置に有るはずの戦車長席が装填手と同じ高さにある。 「怖くありませんか?」 次第に振動が大きくなってくる。 「怖がった所でどうなる物でもないだろう?砲弾が直撃すれば即死する。それだけさ、そのうち慣れる。」 「慣れ…ですか…」 ペリスコープから目を離す。 もはや前面に見えるのは着弾の爆煙だけだ。 「そうだ。舌を噛まないように注意しろ。踏ん張れ! …来るぞ!」 いよいよ砲弾の洗礼が車体の周囲に到達する。 重い車体が振り回されているかのように揺さぶられる。 轟音が絶え間なく続き、爆風によって吹き飛ばされた様々な物体が鈍い音を立てて装甲を叩く。 数分で砲撃はさらに後方へ移る。 肉体的にも精神的にも「壊れなかった」歩兵達が土砂の中から這い出して 埋まった塹壕と対戦車砲を掘り起こす。 それは訓練による物ではなく生存本能による物だ。 限られた時間内に少しでも生き残る手段を講じるために。 『12時方向、敵戦車!』 ひきつった歩兵の声が無線で伝わる。 配下である4両の突撃砲には射撃を待つよう事前に命令済みだった。 突撃砲にしろ駆逐戦車にしろ旋回砲塔を持たない利点は視認性の低さだ。 引きつけてからの奇襲攻撃が常套手段だった。 爆煙の靄から滲み出るように丸みを帯びたM4シャーマンのシルエットが続々と現われる。 同じ曲面装甲を持つT34に比べると随分と車高が高い。 その数は見えているだけでも20以上。 『距離500まで引きつけろ。76ミリ砲を積んだ奴から狙え。』 76ミリ搭載のM4/76は砲塔の形状こそ若干違え、車体はM4と同じである。 こちらの75ミリ砲ならば500Mで十分撃破可能だった。 敵部隊との距離がつまる。胃の当たりが締め付けられるようにひきつる。 『撃て!』 正面のM4/76が黒煙を上げる。直ぐさま突撃砲、対戦車砲も発砲する。 見る間に10台ちかい敵戦車が撃破される。 額座した戦車を避けようと側面を見せた戦車に砲火が集中する。 それでも数にまかせて敵は突撃してくる。わずか5両では防ぎ切れない。 『3時方向、M4!距離650、急げ!』 旋回砲塔を持たない弱点、それは射界が前方に限られる事だ。 一応互いの死角を補うように布陣してはいるがこの数では気休めにもならない。 しかも既存戦車の車体をそのまま流用した車体は装甲が増加された分、機動力に劣る。 じれったいほどゆっくりと車体が向きを変える。 衝撃。 正面装甲に敵の75ミリ砲弾が命中する。 もう少し遅ければ側面装甲を貫通されていただろう。 即座に発砲、射撃のために停止したM4の側面に砲弾が命中する。 『次弾装填急げ!11時だ!』 ギアが悲鳴を上げる。 振り向き様に発砲。 砲塔を打ち抜かれたM4が炎をあげながら衝撃で進路を変える。 それを押し退けるようにしてさらにM4。 距離200mで互いに打ち合う。 敵の砲弾は頭上を通過した。 車体下部を打ち抜かれたM4は盛大に爆発。 飛び散った燃料が火炎放射器のように降りかかる。 『くそっ、全速後退!』 正面の装甲を炎に包まれながらW号駆逐戦車が後退する。 すでに戦線は突破されつつあった。 何台ものM4が陣地を蹂躙して行く。 爆煙の中から敵歩兵が姿を現す。 同軸機銃で制射しながら地面に向けて榴弾を発砲する。 土砂と共に砲弾の破片が、吹き飛ばされた敵兵の一部が、車体に降り注ぐ。 砲塔を打ち抜かれ額座していたM4が引き続いて爆発した。 誘爆では無い。 『狙われてるぞ、4時!』 敵の放った砲弾がさらにM4の残骸に命中する。 車高が低いためにこちらからは敵の姿が見えない。 逆にこちらは松明のように目立っていた。 背後の土手越しに放物線を描いて飛来する砲弾がひどくゆっくりと見える。 次の瞬間凄まじい衝撃が走り、車体の後部、エンジンルームが打ち抜かれた。 尻切れトンボですがご容赦。 ディスクから発見された過去の出来そこないなのです(^^;) 大体、いつ書いたかもさだかでないし、何のマップなのかも不明。 …たぶん、N158街道かザクセンじゃないかなぁとは思うんだけど。 お話的には未完成ですが、読み返してみてパンフロをやって痛感するのはこういう”突然の死”だということで続きは書きませんでした。 |
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