501GamePost

ACE CONBAT

- ElectronicTwin -

※5000Hit記念のオリジナル物ですゲーム本編には関係ありません



20年は生きられない
そう言われた私が
移植手術の成功で後10年は寿命が保証された

良かった

と、皆は言う。

事故死した母親の胎内から摘出され、
臓器の欠陥から病院を一歩も出たことが無い私にとって
それを「良かった」と断言できる理由はどこにもなかった。


「あら、またここに居たのね」
顔見知りの看護婦さんが声をかけてくる。
小さな窓。
壁を埋め尽くす生命維持装置。
床を這うチューブ。
そして私の腰掛けているベッド。
「いい天気なんだから散歩でもすれば良いのに」
曖昧な笑顔で頷く私。
生まれてからずっと。
この部屋で暮らしてきた私にとっては、
この部屋以外は落ち着かないのだということを
この人は理解してくれないだろう。
「面会よ。」
やっぱり。
「そんな顔して。嬉しくないの?」
…
どんな顔をしていただろう。
初めのころのように、不快感は感じていないのに。


「こんにちは」


いつものように。
少し緊張した笑顔で
彼は新しい私の病室で待っていた。
自己細胞から培養した心臓の移植が成功し、
あと10年は寿命が保証された私の社会復帰プログラム。
その担当が彼だった。
身寄りの無い私が高額な移植手術を受けられたのは、
ある企業の実験に”検体”として協力したからだ。
いや…
思えば両親の所属していたというその企業によって
私は生かされていただけなのかもしれない。
その実験のために。



「ふぉとんとーぴとー?」
眉を寄せて相手が首を傾げる。
またやってしまった。
「ああ、いや、それは仲間内でのスラングで正式には高機動追尾ミサイル…」
「すらんぐ?」
頭痛ぇ。
ヘマをやったペナルティというのはわかる。
”奉仕活動”というのもよくある話だ。
定年まで働いても俺の給料では弁償できない額を
数ヶ月の減俸と奉仕活動で免除してくれるというのだから
大抵のことは我慢する自信はあった。
が、
生まれてこの方、スフィアにすら触れたことのない人間を
”社会復帰”させる手助けをしろというのは、
到底俺の仕事とは思えない。
主治医の話では兎に角、病院の外へ興味を持つよう
話し相手をしてくれという。
最初は簡単だと思ったんだが。
こいつは強敵だった。



エレクトロスフィア。
情報の全てがあるもう一つの世界。
そんな重要なものの存在すら
私は知らなかった。
検索。
”こふぃん”
…
彼の話に出たその単語を入れてみる。
棺桶。
そして様々な軍用機。
パイロットが肉体ではなく、
機体から送られてくるデーターで機体を操るようになった時から
キャノピーを塞がれ、半仮死状態で横たわるパイロット達の姿から
自嘲的にそう呼ばれている。
…
窓から見えた飛行機はどれも小さなシルエットに見えたけど、
画面で見る飛行機達は
小さいもの。大きなもの。
つるりとしたもの、ごつごつしたもの。
いろいろだ。
空を雲をひいて飛ぶその姿が私は好きだった。
どこまでも蒼い空を自由に。
…
どれに”乗って”いるのだろう。
私の気に入った機体だと良いけれど。


チチチ
機体の発した警告は「音」として認識される。
”視線”を巡らす。
確認。
機体はすぐさま相手の情報を表示する。
当然だがそこに言葉は無い。
『Mig−29改』。
相手企業のスタンダードモデルだ。
軽(易)い。
ピー
ロックオン警報。
気にせずローリングに入る。
機体の急機動に相手のミサイルは追尾仕切れない。
エンジンを絞る。
機首を敵に向ける。
無茶な機動で機体にはかなりのGがかかっているだろうが
仮死状態の肉体からの苦痛は脳に届かない。
”フォトントーピトー(高機動AAM)”準備。
手足の一切を動かすことなく、
思考するだけで巨大な戦闘機を操る。
会社のために。


ホール。
そう呼ばれる病院の総合受付はいつも大勢の人間で溢れている。
二重になった自動ドアの先にはもっと大勢の人間が居て
病院とは無縁の生活を送っているのだ。
その当たり前の空間へ
私は一歩を踏み出す事ができない。
”無理をしなくていい”と彼は言ってくれた。
先生には外へ誘うように言われているとも。
大切なのは、外へ出ること自体ではなく。
その一歩を自分で踏み出す事だから、と。
「最近はよくここに居るのね」
看護婦さんが言う。
そうかな。
そうかも。
「ああ。」
深く頷いて笑う。
何?
「彼を待ってるんだ、」
顔が熱くなるのがわかる。
そうかな。
そうかも。
嫌な気分じゃない。
「…いろいろ大変みたいだから…」
その言葉の意味を私は夜のニュースで知った。


短い警告音と共に右のエンジンが止まる。
ミサイルの直撃を受けた割には持ったほうだった。
現在位置を確認。
安全圏は遥か彼方だ。
『煙が出てます。消火を。』
寄り添うようにして飛んでくれている僚機からの通信。
自動消火装置は作動中を示していた。
「年貢の納め時かもしれん。俺に構うな、さっさと引き上げろ。」
『しかし、自分のせいで…』
「そう思うならこれ以上迷惑を掛けるなよ、
いざとなれば機を捨てて投降する。保釈金要請を出しておいてくれ」
ぴぴぴ
コール音。誰だ。
『安易ナ投降ハ社則ニ反シマス。訂正ヲ。』
文字情報で送られてきたわざとらしい真面目な文面に苦笑する。
どうやら通信衛星とのリンクは生きているらしい。
いや、肉体は動かないのだから実際笑っているわけではないが。
『脱出進路ヲこーど3デ送信。確認ヲ。』
数秒で指定されたコースがマップに表示される。
それは巡航速度を保っても燃料切れは確実なコースだった。
「冗談だろ!一旦海に出ろっていうのか?!海水浴をする気は無いぜ。」
『決断ヲ。』
ぴー
警戒レーダーが後方からの追撃部隊を補足する。
機械的に残弾と燃料を確認する。
いずれにせよこのまま簡単に帰えれるわけは無い
このまま逃げ切るか送信相手を信じるか、どちらに賭けるかは俺次第ということか。
畜生。


走るという行為がこんなに大変なことだとは思わなかった。
胸が苦しい。
脚がもつれる。
人とぶつかる。
リハビリを終えたばかりの心臓はもどかしいほどすぐに音をあげる。
気が付くと1人、地下鉄に乗っていた。
呼吸を整えながら何度も路線図を確認する。
間違いなく目的地に到着する便だとわかって、
また汗が吹き出る。
夜半ということもあって、乗客はほとんどいない。
揺れる吊革も
天井パネルにめまぐるしく表示されるCMも
軋む車体の音も
どうにも落ち着かない。
深呼吸。
でも、引き返すわけにはいかない。
紛れも無く自分で踏み出した外への一歩。
あの人は誉めてくれるだろうか。
生まれて初めて”死”というものに恐怖を感じた。
お願い。
死なないで。


お互い見つめあう。
彼女は瀕死だと知らされた男が不味そうにコーヒーを啜っている姿に驚き
男は”面会に来た親族”というのが彼女だったことに驚いていた
「どうしたんだ、一体?」
安心から泣きじゃくる彼女をなだめて話を聞く。
彼女の端末に男が撃墜された旨のメッセージが届いた。
ご丁寧に基地への経路図と共に。
「あいつめ・・・」
これもまたペナルティをいうことか。
男の呟きは彼女には聞こえていなかった。


サブリメーション。
人工知能の開発過程において生み出された
人格のコピー技術。
人のあらゆる感情、記憶をデジタル化し、擬似人格を構成する。
技術的にも倫理的にも発展途上にあったそれによって引き起こされた
いわゆる”ウロボロス事件”の後。
技術的問題点以上に
サブリメーション被験者の選定に問題があるのではないかとの意見が持たれた。
”心身共に健康な者”であるが故に、サブリメーションされた人格は
”肉体を持たない”というストレスに耐えられないのではないか、と。
現在、被験者選定に関しての詳細は公表されていない。


『右手をごらんください』
上空を掠めた編隊飛行に目を奪われていた観客達が一斉に頭を巡らし感嘆の声をあげる。
『わが社の誇る最新鋭の空中戦艦”ヴァローラス”です。』
武装しているとは言え大型飛行船には変わり無いそれを”空中戦艦”とは言い過ぎだが、
低空飛行するその威容は観客に強いインパクトを与えていた。

「…良い格好だぜ、”ヴァレリー”」
観客の中。
空中戦艦を愛称で呼んだ男がニヤニヤと笑う。
本来、単独での潜入行動を目的とされたヴァローラスは
従来のスフィルナ級に比べると二周りは小さい。
そのためお披露目となる今日のイベントには
観客への視覚効果と、敵対企業へのディスインフォメーションを目的に
わざわざ船体を大きく見せるよう”オプションパーツ”をフル装備していた。
しかもご丁寧にそれらには派手なカラーリングが施されている。
人間にしてみれば着ぐるみを着させられたような格好だ。
普段やられっぱなしの相手をからかう格好のネタを得たと思うと笑わずにはいられなかった。


 大きい。  
 白地に色とりどりのライン  
 下面に並ぶ鮮やかな関連企業のマーク  
 まるでドレスのように  
 ゆっくりと進むその姿は兵器であることを忘れさせるくらい美しく見えた。  
あれが
あの日彼の窮地を救ってくれたのだという
あれは
”ヴァレリー”と呼ばれる存在は
融通が利かず、母親よりも口うるさくて…
でも
生きるか死ぬかという状況で自分の命を託せるほど
彼は信用している。
いつか
私もそうなれるだろうか

「来て良かっただろ?」
急に笑顔を向ける彼。

私は…そうなりたいと思っている。

「うん、良かった。」

そう、良かった。

今はそう思える。


・
・
・
20歳まで生きられない
そう、告げられていた”私”が
観客の中でこちらを見上げている。

あの男にアドバイスしたままの服装なのですぐに判別できた。
…現場でもこれくらい素直に従ってくれると助かるのに…
私が”私”だということを
”私”もあの男も知りはしない

それで良い

手術の失敗で死亡したと教えられた”私”が
あの部屋に姿を見せた時には驚いた。
天井の監視カメラから見る”私”は
手術が成功したというのに
何も変わろうとはせず、
未練がましくあの部屋に入り浸っていた。
…
私もまたあの部屋を訪れてしまったことへの腹立たしさ
私だけが”自由の身”となってしまったことへの後ろめたさ
おそらくはその両方が原動力となって
実行されたささやかな計画は
どうやら無事に成功したらしい。

外の世界へ一歩を踏み出せた”私”は
もう大丈夫だろう


なんといっても私なのだから。





5000Hitは 義経さん でした! ありがとうございます。 って、何時の話やねん!という突っ込みはご容赦(^^;) まさか10000Hitと同時にUPすることになろうとは・・・ 頂いたお題が ・私の彼はパイロット ・フォトントーピトー ・空中戦艦 という… 義経さんだから「空モノ」にしようというのは早くから決まったのですが、 最近の更新物が暗めのものばかりだったのでハッピーエンド(?)モノにしたいなぁ、と。 猛烈に難産でした。 イメージ的には「3」の後日談的な世界観です。 今までUPしなかったのは終わり方を悩んでいて、 サブリメーションされた人格とその被験者が 互いの存在を認知し得るか?ということでした。 ハッピーエンドということでこうした終わり方を選びましたが、 ゲーム本編のようなサブリーメーション人格の発狂を防ぐには 双方共にその存在を知らせないことが重要な気がします。
Back