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「業」
行き詰まった冒険者ほど暇な者はない。 このところギルガメッシュの酒場に朝から知った顔が集うのもその理由が大きかった。 「ねぇねぇ、聞いて聞いて!」 ウェイトレスのフェアリー仲間に一通り挨拶を済ませたアルテアが戻ってくる。 店の奥まった位置にある「いつもの」テーブルにはセーマが居た。 「何です?」 「あのね、西通りに新しい小間物屋さんが出来たんだって。東方の可愛い小物が一杯だって。行ってみよ。」 てっきり探索に関する情報なのかと思って期待したセーマは表情には出さず落胆する。 この小さな親友は自分を気遣ってくれているのだ。 エリアB、「動輪」の謎を解いたセーマに皆が期待している。 それがプレッシャーとなってセーマを苦しめていた。 「そうですね。たまには気分転換も良いかもしれません。でも、無駄使いはいけませんよ。」 ようやくにして解けた謎の先… エリアC。 そこには新たな難関が冒険者を拒んでいた。 移動する床。 エリアCに待ち受けていたのはそう形容するしかない代物だった。 各部屋を結ぶ通路の全てが高速で移動し、冒険者達を強制的に運び去ってしまう。 行き着く先はゴミ捨て場という念の入りようだ。 一応、「移動床」の制御装置らしき物はエリアの入り口にある。 だが解読が完了した古代文字とはまた違った様式で記されたそれは今の所まったく法則性が見いだせない。 「動輪」に続くこの「移動床」によって、探索は行き詰まっているのだ。 そして多くの冒険者が探索に見切りをつけてガイネスを去りつつある。 難解な謎の連続も理由の1つだが、やはりこの「神殿」は何かおかしい。 エリアと呼ばれる広大な区画。 どう考えても湖底に存在する遺跡と言うには規模が大きすぎる。 エリア間の移動をはじめ随所に使われている未知のテクノロジー。 そしてまったく糸口すら掴めない巫女の行方。 巫女の失踪自体が作り話では無いかとの噂まで流れる始末だ。 ガイネスV世は興味本位で神殿によって封印されている遺跡(エリア)を冒険者を利用して探索しようとしているのだ、と。 だとすれば先人達がこれほどの遺跡を封印した理由とは何か。 「少し良いか?」 馬小屋の一画。 酒場同様、それなりのパーティには「専有」の場所が認められている。 もっとも新参者が激減したという背景はあったが。 「なんですか?改まって」 専有とは言っても所詮は馬小屋。 声を掛けるまでも無い距離である。 いぶかしむレオンの前にトーラスが腰を降ろした。 「最近気になってな。その…お前の剣の事だ。」 「コイツが何か?」 レオンが立て掛けてあった「切り裂きの剣」を手に取る。 神殿の地下で手に入れた戦利品の1つだ。 「ファイアーソード」に比べれば幾分劣るがレオンはこの剣を愛用していた。 「その剣には良くない「気」を感じる。お前には悪いが手放すべきだ。」 真剣なトーラスの言葉にレオンは笑って首を振った。 なるほど。ベリエが今日に限ってポロスを連れて教会へ行ったのはこのためか。 「らしくないですね。はっきり言ったらどうです、問題は剣じゃない。この俺でしょう。」 「かも知れん。だが、俺はお前の事を知っているつもりだ。剣の気に当てられているだけだと信じたい。」 この所、いや、兆候はもしかしたら最初からあったのかもしれない。 レオンは力を欲していた。 強く。もっと強く。 そのために戦いを欲していた。 レオンが両手に剣を持った時、トーラスは盾を捨てるべきでは無いと忠告した。 盾は『守り』の象徴であるから。 二刀流は聖職者を目指す者にあるまじき戦い方だと。 「わかりました。この剣は手放します。でも二刀流を止めるつもりは無いし、俺はいつまでも貴方の後ろを追いかけてたガキじゃない。」 剣に限った事ではないが武器には「念」がこもる事があるという。 妖刀だの聖剣だのと言われる類だ。 レオンの手にした「切り裂きの剣」は到底そんなレベルでは無い物の確かに何かが宿っていた。 剣の記憶とでも言うのか。 試しにボルタックで新品の「切り裂きの剣」を買ってみた事もある。 やはり使い勝手の差は歴然だった。 侍の言う「己の半身」という意味が何となく理解できた。 ボルタックでは買い取った商品を「消毒」してから売るそうだ。 「念抜き」とでも言うのか。 つまりは「呪い」もまた「念」の一種なのだろう。 いや、トーラスの言う通り自分の感じている「こいつ」も呪いの一種なのかもしれない。 いずれにせよボルタックへ売るという事はこいつを殺す事に他ならなかった。 レオンはボルタックの店の前で立ち止まり、今一度手にした剣を眺め悩んでいた。 |
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