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「タブレット」
「四柱の試練」を経て太陽の石版を手に入れた者のみがカーラ・アコル神殿の内部へと入る事ができる。 ガイネスに来て三日目にして石版を入手したヴァンクル達一行はかなり優秀な部類に入った。 一攫千金を夢見て集まった者達の半数は四柱の守護者の前に倒されるか、断念させられている。 それでもこの城塞都市にやって来る者達は後を絶たなかった。 「またお前達か。」 もう顔馴染みになってしまった衛視長が呻く。 6人は船着き場の一画に整列させられていた。 周囲には衛視達が走り回っている。 ただでさえ余所者には冷たい風潮のガイネスにあって、ヴァンクル達はかなり「目立った」存在だった。 まず第一に6人のうち「人間」がヴァンクルだけである事。 全員種族がばらばらなのである。 リズマン、ドラコン、ラウルフ、ムーク、フェルパー。 ここまでこれば目立たない訳がない。 そしてもう一つ… 「前回と同じだ。攻撃を受けたので応戦した。それだけだ。」 「ああ。そうだろうよ、前々回もその前も、そしてこれからもなぁっ!」 淡々と話すヴァンクルに衛視長が食って掛かる。 ファーンが首をすくめ、ミネットが小さく笑い、リサーが溜息をついた。 レザールとロッシュは相変わらず何を考えているのかわからない。 「いいか、これだけ続けば言い逃れは出来んぞ。お前達がこいつらを襲ったのだろうが!」 神殿のある小島とガイネズを結ぶ渡し船の船着き場。 夜半に探索から戻った一行は数名の賊に襲撃を受けた。 そしてこれを「殲滅」したのである。 「お前も毎回同じ事を言う。今日は疲れているのだ、手続きは省いてさっさと牢へ案内してくれないか?」 15才の少年にこう言われて怒らない方がおかしい。 衛視長の顔が見る間に赤く染まる。 別にヴァンクルは悪気がある訳ではないのだが幼い頃からリズマンの一族に育てられた彼は人間的感情に疎い。 「ちょっと、また牢で一泊なんて冗談じゃないわよ!」 衛視長の怒りが爆発する前にリサーが噛みついた。 「そりゃ、毎回皆殺しにしてるこいつらも悪いわよ。けれど状況から見てなんで私達がこんな奴等を襲う理由があるの?衛視ならそれくらいわかりそうな物でしょう。」 言ってしまって内心しまったと思う。 しかし、駆け出しの冒険者を襲うより神殿で魔物を倒す方がよほど「実入りの良い」事は事実だ。 我ながらミネットとは別の意味で口が災いしている。 これは一泊どころでは済まないかも、とリサーが思った瞬間に衛視の1人が怖々と衛視長に耳打ちをした。 衛視長が大きく舌打ちをする。 「いい気になるなよ、いずれ化けの皮をはがしてやるからな!」 耳打ちの内容を聞き取っていたリサーは複雑な気分だった。 都市の表層部へと続く階段を夜目にも鮮やかな純白のローブ姿が降りてくる。 眠りにつけるのは随分と先になりそうだった。 タブレット制。 迷宮と探索する冒険者達が産み出したルールだ。 二つのパーティが契約を交わし、必ずどちらかが拠点に待機するという物だ。 遭難の危険がつきまとう冒険者の保険のような物である。 相方のパーティが予定を遅れて帰還しなかった場合は残る一方が捜索に出る。 遭難した側も相方を信じて無闇に動き回るような事はしない。 これだけでも生き残る可能性は飛躍的に向上する。 整備の行き届いた拠点では冒険者ギルドのような組織が存在して定期的に遭難者の捜索を行うが、多くの場合冒険者は一匹狼だ。誰にも気付かれずに朽ち果てて行く。 互いを信用できない冒険者がお互いの「通行手形(タブレット)」を交換し合った事からこの名がついたとされている。 そして多くの場合タブレットの相手は属性の違う相手が選ばれる。 これは「ル・ケブレスのジレンマ(属性別の障害)」があった時や属性専用アイテムの譲渡などその方が探索が容易になるからだ。 余談だが「ル・ケブレスのジレンマ」の中で遭難した場合はどうなるのかというのも冒険者の中で良く言われる笑い話である。 つまりはイビルパーティであるリサー達はベリエ達グッドパーティと「タブレット」契約を結んだのだった。 同じ冒険者というのに、「教会」の力とは随分と物を言う。 下級司教であるセーマの一言で衛視達は一行を解放したのだった。 その後は毎度の事ながらセーマによる「命の尊さ」と「争いの無意味さ」に関する説教が延々と続いた。 本来、属性間の干渉はタブーなのだがヴァンクルの「悲運な身の上」を知ったセーマは事有るごとに説教を行っている。 まじめに聞いているのはファーンだけだが。 しかも違う宗派の僧侶なのだからそれはそれで問題だったりする。 ミネットの寝言で説教が中断したのを気にこの夜は「お開き」になった。 「あんた達今度から少しは考えなさいよね。」 「了解した。」 げんなりとしたリサーの言葉に珍しく素直なヴァンクルの答えがかえってくる。 「本当に?どうわかったのか言ってみなさいよ。」 「要は罪人を簡単に殺さずに衛視に引き渡して肉体的精神的苦痛を味合わせろと言う事だろう。 ロッシュには悪いが次ぎからは殺さないようにする。」 「…なんか違うけど、大体ロッシュさんに何の関係があるのよ?」 忍装束に身を包んだロッシュがクルリと目玉をリサーに向ける。 何となく苦手だ。 「ロッシュは転職仕立てで風通しの良い馬小屋では身体に悪い。まだ暫くは牢の方が良かった。まぁ、お前達が毛皮を剥がされてはかなわん。」 リサーは怒るよりも前に意識を失いそうになった。 結局の所、この所の襲撃は「太陽の石版」が目当ての犯行らしい。 現にベリエ達も襲撃を受けたそうだ。 四柱の守護者を相手にするよりは「年端もいかぬガキ共」を襲う方が楽だと考えたのだろう。 ビギナーズラックで守護者に勝てるものかどうかわかりそうな物だが。 しかも、そうした「駆け出し連中」だけでなくすでに石版を入手した冒険者の間でも不穏な動きがあるそうだ。 探索を進むにつれ、この石版は神殿への侵入だけでなくその中央に様々な輝きの石をはめこむ事でより深層への「鍵」となる事が判ってきたからだった。 衛視による恫喝と、自然淘汰によって石版を巡る騒動が沈静化するには暫く時間がかかった。 |
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