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「解けない謎」
奇怪な操り人形が蠢く。 本来、人間に操られるべき糸は人形自らの片手で操れていた。それが十数体も居並ぶ様は文字通り悪夢だ。 ナイトメア。 単体ではさほど恐ろしくない低級妖魔の一種。 しかし、集団で唱えられる眠りの魔法は熟練の冒険者でも時として危機に陥らされる。 誰もこんな厄介な相手に好きで挑まなくても良いだろうに、と「中立」であるリサーは思う。 手にした炎の剣が人形を両断する。 不意に意識が遠のき掛けた。すぐ脇で別のナイトメアが眠りの呪文を唱えたのだ。 歯を食い縛って左手のスカルダガーを繰り出す。 無理な体勢からの一撃では力及ばず、人形の片腕を切り落としただけに終わった。 カラカラとナイトメアが笑う。 次の瞬間、ナイトメアの頭部が真っ二つに割れた。 「!」 隣で戦っていた侍、ヴァンクルの小太刀だ。急速に意識が鮮明になる。 「…ありがと。」 その言葉が彼に届いたかどうか。 もう1人の前衛、リズマンの戦士レザールと共にヴァンクルは流れるように死と破壊を振りまき続けている。 レザールは「邪悪の斧」と「悪の短剣」、 ヴァンクルは「首切りの刀」と「小太刀」。 手にした得物が違うとは言え、毎度の事ながら自分の非力さを痛感させられる瞬間だ。 残る数体のナイトメアは後衛の忍者、ロッシュの吐き出した酸のブレスがケリをつけた。 壁面を覆う巨大な金属性の円盤。 それがこの階層、「エリアB」の終着地点だった。 この前で休息を取るのがこの所の日課になっていた。 最初の頃は何とかこの「動輪」を開けようと試みたものだが、諦めの悪いミネットですらもはや触れようともしなかった。 皆黙々と干し肉や果実を貪り、硬くなった筋肉をほぐし、装備を点検する。 よほどの事がない限りここからマロールで帰る事は無い。 また来た道を地下一階まで引き返し、そこから「エリアX」へ通じる地下五階、要は壁一つ隔てたこの階層へと戻る。 随分と距離のある行程だが、それだけに魔物に出くわす回数も多く経験を積むにはもってこいだった。 「ほんと、見れば見るほど憎たらしい顔してるよねコイツ。」 独り言にしては大きな声でミネットが言う。 「動輪」は三重になっていて、その中央には人面に模した彫刻が施されている。 確かに見ようによっては嘲笑っているようにも見えた。 この円盤がこの奥に通じる部屋の「鍵」となっている事ははやくから判っていた。 いわば金庫のダイアルだ。 三重になった円盤のぞれぞれを一定の角度に回せば開く仕組みだろう。 本職の盗賊でなくてもそれくらいは意味有りげに円周に刻まれた模様で想像がつく。 それは明らかに回す者が角度を認識しやすいように刻まれていた。 ゲップに似た声でレザールが何事か呟く。 「誇り高い」彼は滅多なことでは共通語を話さない。 爬虫語を理解できないリサー、ミネット、ファーンの三人娘が自然とヴァンクルの「通訳」を待った。 幼い頃にレザールの部族に拾われたヴァンクルは人間でありながら彼等の言葉が理解できる。 「ボンバサマに似ていると言ってる。」 刀の手入れする手を休めてヴァンクルが円盤を見上げる。 ボンバサマ。この近辺に出没する「踊る魔除け人形」とも言うべき魔物の一種だ。 「…似てるわ。」 ミネットが呟いた後にケラケラと笑った。 <つづく> |
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